杉山 正 - アイアンの教則本について

E.D. IRONS の教則本「Twenty-Seven Groups of Exercises」  

 
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Claude のレッスンでは、毎回タング(舌)のフレキシビリティからスタートする。 
最初に渡されたのがこの E.D. IRONS の 教則本「Twenty-Seven Groups of Exercises」(以下アイアン)である。 
この他フレキシビリティに関してはレッスンの進行状況により下記の著者による教則本に移行していった。
 
 
 

  • Walter M. Smith 
  • Charles Colin
  • Del Staigers
  • Ernest S. Williams
  • Max Schlossberg
  • Alexander PETIT
  • St. Jacome
  • Pedro Lozano
  • Claude Gordon(順不同)

 

 
アイアンは半世紀以上も前の教則本だが、私の知る限り明確にタングにポイントが合っている最初の教則本だと思う。 
この本は19世紀に書かれたアーバンやSt.ジャコムなどの伝統的なフレキシビリティのアプローチとは違い大変ユニークで効果が高く、アイアン以前に出版された他の教則本とは明らかな違いがある。その後出版されたフレキシビリティの教則本にはアイアンの影響を受けていると思われるものが沢山ある。自分としても最初のフレキシビリティがアイアンだったこともあり、上記の様々な教則と比べてひときわ印象が強く且つ有益だった。私は自分の生徒達(中学生からプロフェッショナル)にも色々なフレキシビリティの教則本を与えているが、やはりアイアンが一番効果が上がる傾向にある。 
 
さてアイアンのレッスンだが、7ページ目の Group7からスタートして19ページ目の Group24までを使用し、中の Group15, 16, 20 はカットする。私は一回目のレッスンでは Group7〜Group9 までを与えられた。 
 
まず CLAUDE の口からでた言葉は 『CHEST UP』『BIG BERATH"』 そして『WATCH THE TONUGE』だった。 
吹き始めてしばらくするといくつかの注意があった。まずトランペットの持ち方(左手と右手のセットの仕方)、フィンガーボタンを3本の指のどの位置で押さえるか、また押さえていない時の指の位置、そしてフィンガーフックに対する小指の在り方等をきっちり教えられた。
それまで私は楽器の持ち方やフィンガリングなど真剣に考えたことがなく、それほど重要だという認識もなかったのでそこまで厳しく言われたのは少し意外だった。しかし実際にそうしてみると非常に効率が良く心地よかったしフィンガリングの不明瞭さも改善出来た。それに日本では今までこのような基礎的な情報が全くなかったのでとても新鮮だった。次に言われたのは『吹く前にリップを必ずウェットに』、これはマウスピースのリムを舐めるということである。
 
以上のアドバイスを受け再びアイアンに戻り、7〜9までのすべてのポジションを演奏した。これはまずオールスラーで演奏した。 
舌のポジションについて非常に細かい指摘があったがすべてが英語だったため(当たり前の話だが)あまり理解できなかった。
私の空中をさまよっている目線を見て<こいつはきっと理解出来てないな>と悟った CLAUDE が次にしてくれたアプローチは私にとって生涯忘れられない最高のレッスンとなった。それはCLAUDE が自分の口を開け舌の様々なポジションを見せてくれたことだった。これはまさにどんな説明よりも分かりやすかった。
今思うとこれは秘中の秘であったものを私が英語が不馴れということで見せてくれたのだがとてもラッキーだった。さらにびっくりしたことはアイアンを演奏しているトランペット奏者の舌の動きをX線で撮影したビデオを見せてくれたことだった。これをもし見る機会があったら余りにも舌が早く器用に動いている様にきっと本当にびっくりすると思う。その動きは人間の物と思えずまるでエイリアンのごとくだった。このレッスンで私の間違った幼稚な舌の概念は木っ端微塵となり、新しく正しい理論がインプットされその知識をもとにすべてのアイアンのエクササイズを練習していった。 
 
初回のレッスンで理論的にはどこをどうしてどう練習すれば良いか完全に解った。しかし本当にそれが習慣となって身につくには10年程かかったと思う。CLAUDE がいつも言っていた『理論が頭の中に耳から流れ出るくらいに満杯にあったとしてもそれが習慣となって身についていなければ全く意味がない、奏法バカになるな』という言葉どおりだった。レッスンは初回ということもあり、自分としては大変緊張して演奏したが、CLAUDE は常に励ましてくれたので実力以上に吹けた感があった。ある時私の調子が悪く憂鬱な顔をしていたところ、ひどく怒られ『トランペッターはいつも明るく笑っているのだ』と言われた。実際彼のレッスンはジョークが飛び交い笑いが絶えなかった。彼には厳しいけれどこちらを優しく包み込むようなオーラがあった。今自分がレッスンをする立場になって CLAUDE のように生徒に接することがいかに難しいかを実感している。
 
アイアンを含め大半の素晴らしい教則本は19世紀の中ごろから20世紀の初めに書かれ、現在も容易に手に入るがそのほとんどに著者の説明がない。しかし教則本にはその使い方について著者の様々なアプローチがある。CLAUDE はほとんどの教則本について研究し尽くし、また直接指導を受けたことによって正しい教則本の使い方を生徒に伝授出来た。たぶんCLAUDE の世代が H.L.CLARKE のような偉大な著者達から直接教えを受けた最後のジェネレーションだと思う。著者の言う通り正しく使用すれば多大な効果があるが正しく使用できなければ全く効果がなくかえって害になる。CLAUDE の教則本についても私は渡米する前に全て和訳して理解したつもりだったが、そんなものはレッスンの内容の1%にも満たなかった。直接教えを受けることの大切さがよくわかった。
 
 
 
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サンフランシスコ近郊のオークランドで偶然にアイアンが使用していたコルネットのマウスピースを見つけた。 驚くことにその外見は現在巷でメガトーンなどと呼ばれている重量感たっぷりのマウスピースに酷似していた。 その手のマウスピースというのはこんなに昔から存在していたのだと思った。 そう言えばルディ・マック、パーデュバなども重量感たっぷりのマウスピースだった。 マウスピースも流行で重くなったり軽くなったりしているようで、これはちょうど女性のスカート丈が長くなったり短くなったりするのと似ていて滑稽だった。 ちなみに私はマウスピースは軽く、スカートは短かめが好みだ、、、、、 
 
Steak.jpg話は変わるがゴードンのブラスワークショップが終わったあと CLAUDE が私を含めたスタッフ数人をお気に入りのステーキハウスに連れて行ってくれた。 皆クラウドのおごりということで好き放題注文していた。 私はというと顔ほどもあるNY・Tボーンステーキを注文した。ステーキはトランペッターズフードだということが CLAUDE の持論だったが、この時彼は可哀想なことに医者にステーキを止められており淋しくチキンを食べていた。 私がステーキを夢中で食べている時にCLAUDE が私にしきりに目配せをしているのに気がついた。彼は私に向かって『目を使え、目を使え』といたずらっぽく言うのだった。いつもは「舌を使え」なのに、どうしたんだろうと思って回りを見渡すと今までステーキに夢中で気がつかなかったが、なんとウェイトレス全員がアンナミラーズ真っ青なコスチュームだった。私が「グレイト!」と言ったら彼は満足そうに大笑いした。お茶目なゴードンだ。