杉山 正 - クラークの教則本 Technical Studies

H.L.Clarke
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Technical Studies

20世紀における最高の演奏家の一人、コルネット奏者 Herbert L. Clarke (1867~1945) は金管楽器の指導者としてもよく知られており、


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  1. Elementary Studies
  2. Technical Studies
  3. Characteristic Studies
  4. Setting Up Drills

の4冊の教則本をこの世に残した。
それぞれ素晴らしい教則本だが簡単に説明すると、Aは初心者のための教則本で特に小学生、中学生に与えるとよいと思う。CはBを完全に修得してから進む仕上げのような教則本であり、Dは専門家になってから自分のコンディション維持のために使用する教則本である。
さてTechnical Studiesだが、この教本は1912年に初版された。アーバンが管楽器奏者の「聖書」と言われている一方で、この教本は「新約聖書」と言われており、世界中のトランペットの教則本の中でアーバンと並んでよく使われている。



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この教則本について述べるにあたって、残念ながらいくつかの問題点をあげなければならない。色々な教則本と同様に出版を重ねる事によってオリジナルに述べられている事が編集者の手によって変わってしまっている。また他の優れた教則本と同じように使用についての説明がほとんど書かれていないし、説明が書かれていても改訂などで初版に書かれていたものとは違ってしまっているため、これらを参考にするのはナンセンスである。今までにこの教則本についてクラッシック、ジャズを問わず何人ものプレ-ヤ-達と話をする機会があったが、使い方がまちまちで中には思わず苦笑いしてしまうこともあった。
オリジナル版と改訂版の違いについては、コラムのページ「Technical Studies オリジナルと改訂版」のタブをクリックしてください。コラムを読む

この教則本は単にテクニックを磨くためのものと思われがちだが、そこにはテクニックはもちろんウィンドパワー、ウィンドコントロール、フレキシビリティ、ハイノート、アタック、accurate(正確さ)、endurance(耐久力)などのアプローチがふんだんに盛り込まれており、それらを総合的に訓練するための教本である。ゴ-ドンのレッスンの中ではクラ-クの教え、クラ-クの考え方を実際に体験したゴードンならではのアプロ-チが随所にあった。 

bobodonnell.jpg今でも一番尊敬している兄弟弟子のボブ・オダーナルまず FIRST STUDY ~ EIGHTH STUDYまでをSingleタンギング、Kタンギング、doubleタンギング、Tripleタンギング、スラーで徹底的に舌とフィンガリング(ポジション)の訓練をさせられた。同時に指使い(本には書かれていない特別なフィンガリング)もしっかり教授された。本に記載されているようにpp、スラ-で練習するよう言われた事はなかった。1~8までのスタディを前出の方法でしっかり練習した後、再度 FIRST STUDYに戻りウィンドパワ-、ウィンドコントロ-ルの練習に入るのだが、その時初めて書いてあるようにpp、スラーの練習となる。それぞれのスタディにかける時間は毎日練習したとして8週間、それ以下はダメでそれ以上はやらないほうがよく先に進ませる。
それぞれの練習は何回リピ-トしても良いのだが、弟弟子のRich Hofmann が FIRST STUDYのNo.1を55回リピ-トしたのには驚きだった。今でも印象に残っているがゴ-ドンと一緒にアメリカ各地をクリニックのデモンストレ-ターとして同行していたBob O'Donnell〈彼は現在LAのトップスタジオミュージッシャンの1人として活躍している〉が FIFTH STUDY の Etude V を1つのアタックミスもなくワンブレス・シングルタンギングで完璧に吹いたのを聴いたことがあるが実に素晴らしかった。この二人を聴いて「人間は正しく訓練するとここまで到達するんだな」というのが正直な感想だ。
ボブ・オダーナルの演奏を聴くLinkIcon


私もこの教則本を練習し始めた時は上手くいかず大変だったが今ではWハイCの音域までできるようになった。ゴードンのワークショップでアルトゥ-ロ・サンドバルに会った時、彼もクラークには苦労したらしく自分の手をひっぱたきながら練習したと言っていた。アメリカにいて感心した事はプロもアマチュアも、ジャズミュージシャンもクラッシックの演奏家も本当によくクラ-クを練習していたことだ。 

ゴ-ドンのレッスン体系のアプロ-チの仕方や考え方の大部分はクラークの教えからきている。しかしゴードンのイメージは残念な事に彼の教則本「Systematic Approach」の中にあるハイノートとペダルノートのみに焦点があてられ、偏って広まってしまっている。これはアメリカでも日本でもそうである。実際に体験した私が感じている事は、もちろんハイノートもペダルも重要な部分ではあるがほんの1部分に過ぎず、この本全体に書かれているアプロ-チが正確に理解されていない事だ。今後Claude Gordonがもっと正確に広まっていったらよいと思うし、ブラスプレ-ヤーにとっては素晴らしい恩恵が受けられると信じている。 

補足ながらトロンボーンなど低音金管楽器用にゴ-ドンが Technical Studies を編集したものが出版されている。

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クラウドがクラ-クの事について思い出をいろいろ話してくれた中で、非常に印象に残ったものがいくつかある。 
その1つは最初のレッスンの時の事で、クラウドはクラークに「そのマウスピ-スは何だ!、そんなものはすぐ捨てなさい!」と言われた。そしてタンスの中をゴソゴソ探してハイムを持って来たクラークは「これを使え」とクラウドに手渡したそうだ。私がクラウドから受けた最初の洗礼と同じ事がクラウドの身にも起こっていたのだと思うと大笑いだ。歴史は繰り返すと言うが、それと同じ事を私も生徒に言っている時がままある。 

2つめはクラークが自己の教本の中でマウスピ-スの位置について述べている点だが、彼は唇に対して上1/2、下1/2がよいと記している。しかし実際にクラ-クが演奏しているのを見て、クラウドはどう見ても彼のマウスピ-スの位置は上2/3、下1/3だったと言っていた。これについては文章を媒体とする伝達の難しさ、危険性を感じる。 

3つめはノ-プレッシャ-奏法だ。ある時クラークがあるクリニックで訓練されたプレ-ヤーはこんな事もできる、というデモンストレーションで天井から楽器を吊るし、手を使わずに吹いた事があった。これが有効な練習方法だと全米に広まってしまったそうだ。あとからクラークはクラウドに「あれは完全に自分のミスだった。非常に後悔している」と語ったと話してくれた。 

ノ-プレ-ッシャ-奏法にするとどういうことになるかをクラウドが絶妙に言いあてていたが、まずノープレーッシャーにする。すると音が出ない、そして曲が吹けない、そして仕事が来ない・・・  

私には中学時代に先輩から強制的にさせられた練習方法がある。これが絶対いいのだとばかり、机の上にトランペットを置いて、ひざまづき、両手を後ろに組んで吹くというノ-プレッシャ-奏法を長時間やらされた。 クラークのちょっとしたミスが極東の地方都市の中学校の吹奏楽部まで影響があったのかと思うとただただ恐ろしい。




駅からG−clefまでの道順です。

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