Masashi Sugiyama - ホルン奏者のためのガイダンス


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更新日 2017-11-02 | 作成日 2008-05-14

ホルン奏者のためのガイダンス

ゴードンのブラスキャンプで配布されたこのテキストは、ホルン以外の金管教師がホルン吹きの生徒と直面した時のための一般的なガイドラインとして配られたものです。
和訳はホルン奏者でもあり、英語を専門職とされている大橋圭壱さんにお願いしました。

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●はじめに

これはホルンのあらゆる面で権威的な記述になることを意図したものでは決してない。そのエクササイズがトランペットではどんな効果を意図しているかという「真意(ある偉大な先生の言葉を引用して)」をつかみ、ホルンで吹いた場合に同じ成果が発揮されるよう応用することがここでの最上の目的である。
*写真はゴードンキャンプに参加した子供達と女性ホルン奏者

●ホルンについて

ダブルホルンの調性はそれぞれ実音ローFとB♭である。F管ホルンはFチューバあるいはFアタッチメントを操作したトロンボーンと同じ長さである。一方、B♭管ホルンはテナートロンボーンと同じ長さであり、トランペットのオクターブ下の音域である。
ダブルホルンは2つのホルンの結合であり1本のホルンのように演奏される。

Horn1.2.jpg譜例1,2譜例1と付録の運指表を見ればわかるとおり、ト音記号譜第2線のG♯とその上は親指ヴァルヴを押してB♭管で演奏し、その一方G♯より下の音はF管で演奏される。ここでの音名は「F調」に移調されたものである。したがって記譜上のCはF管で吹いてもB♭管で吹いても必ず実音Fで鳴るものである。これはまさに理解しておくべき大事なことである。他の多くの金管奏者は、F管ホルンで記譜上のCを吹けば実音Fが鳴り、同じ記譜上のCをB♭管ホルンで吹けば実音B♭が鳴ると考えている。これは正しくない。


Horn.fingering_0001.jpg運指標ホルン奏者という者はいかなる時もホルンはF管であると考えており、2つの調性を切り替える親指ヴァルヴに対する認識はもう一つのヴァルヴ
という程度である。
譜例2(E調のClarke2番)を参照のこと。
Xは親指ヴァルヴを押すことを意味する。


●練習

Horn.3_7.jpg譜例3,4,5,6,7ホルンの「実用」音域は五線下のGから五線上のGまでである。大概のホルンの楽譜はこの範囲で書かれるものである。ソロや劇判などでよく使われる最高音は上第2線のハイCである。
譜例3を参照のこと。
最低音は譜例3に書いてある通りローF(B♭管の基音)である。時々それより少し低い音がオーケストラのパート譜に出てくる。まず肝に銘じてほしいことは、高音域の練習ばかりやらせてはならない。「自分はこれを5度上げてさらいたいのだろうか。」とためらう程度がよい。
今言ったことを踏まえた上で各練習カテゴリーに目を通しどのようにホルンに応用するか実例を示そう。

●フレキシビリティ

時に理解するのがもっとも困難になるものであるが大抵はこれが生徒に与える最初の練習の一つであるのでフレキシビリティから話を始める。開放から初めて下降し、全部で7つのポジションで演奏する (0, 2, 1, 1-2, 2-3, 1-3, 1-2-3)。
このカテゴリーに属するエクササイズは以下の通りである。
Irons、Colinのリップフレキシビリティ、Smith、デイリールーティーンの第1部、タングレベルエクササイズその他(注)FTBもこれに含まれる

まずは譜例から初めて説明に移る。上記譜例4を参照のこと。
これはトランペットのために書かれたであろうと思われるものである。このエクササイズの「真意」は最低音(ペダルノートは含まない。その音は後で触れる)から次の倍音に移ることである。これをホルンに当てはめてその真意を保つには以下の2つの方法のうちの1つで演奏することが考えられる。

最初に譜例5を見てみよう。これはF管しか使わない。
一番下の開放の倍音から始めよう。トランペットと同じような感覚で吹くには、ホルン奏者はこのエクササイズを1オクターブ低く吹かなくてはならないだろう。またこれには問題がある。このエクササイズを前述の
方法で演奏すると音が低過ぎるのである。トランペットで第3間のCまで上がるエクササイズでもホルンで吹くと五線下のCまでしか行けないのである。

もう一つの方法として譜例6を見てみよう。
こちらはB♭管しか使わない。さっきと同じ倍音を吹くとホルンではローFとローC(F管読みの場合)が鳴る。しかし通常の指使い(Fは1番、Cは開放)を使うのではなく、親指ヴァルヴを押して開放で吹くのである。
こうすると、最低音から次の倍音に移るというこのエクササイズでトランペットで吹くのと同じ効果を上げることができる。この手のエクササイズを演奏する時は、F管ではなくB♭管のみで演奏する。トランペットで演奏する場合の音域に近いからだ。

早い話、一般的な音域でトランペットと同じ倍音列のフレキシビリティの練習をするためにホルン奏者がするべきことは、そのエクササイズを5度下げてB♭管だけで演奏することである
(結果として同じ倍音列のままになる)。そして当初の譜面と同じ指使い(トランペットと同じもの)を使う。

例えば、譜例7(Ironsの7番)を見てみよう。
トランペットでは1-2-3で始まるが、ホルン奏者は、1) 5度下げ、その結果記譜上のBで始めることになる。

Horn.8.9.jpg譜例8,9譜例8を参照のこと。
2) 親指を使ってB♭管だけで演奏し、トランペットと同じ指使いを用いる。

譜例9は、Ironsの7番をホルン奏者が吹けるようにするために最後まで書き直したものである。

ホルン奏者に有益になることを付け加える。F管の開放はB♭管の1-3と同じ長さである。
それゆえに、B♭管の1-3で吹けるフレキシビリティ練習はF管開放でも全く同じに鳴る。同じ論理に従えば、B♭管の1-2-3で吹けるものはF管の2でも吹ける。このポジションを使えば抵抗感が少ないのでうまくいく。 ヴァルヴが少なければその分音が合わせやすい。


●フレキシビリティ練習の拡張

Horn9.10.jpg譜例9,10この法則を引き続きあてはめ、フレキシビリティ練習をずっとF管の1-2-3まで下げることが可能である。
譜例10を見てみよう。これは譜例4をB♭管の開放からF管の1-2-3まで12のポジションに拡張したものである。
この様な拡張はデイリールーティーン第1部みたいな短い練習に適応させるのが一番よい。12回も練習することやポジションが進むと本当に音が低くなることを考えると、この拡張練習はかなりの負担であり、時に思った以上の負担になることもある。



●音域の練習、ペダルノート

Horn11.12.13.14.jpg譜例11,12,13,14書かれている通りに通常の指使いで。
ホルン奏者は下第3線の記譜上のFより1オクターブ低い記譜上のFに到達して初めて最初のペダルノートに到達することになる。この音は、トランペットで最初のペダルFを吹くのと同じ感覚でF管の1番ヴァルヴで演奏すること。これは「偽のペダル」である。つまり実際の倍音列にはない音であるが、倍音列にあるF♯を下げて同じ「感覚」を維持している。
C♯までの次の4つの音も1オクターブ上の指使い(1-2, 2-3, 1-3, 1-2-3)をきちんと使うこと(トランペットの場合と同じ)。ここまで譜例11を参照のこと。


ローCは辿り着きづらいがF管の開放で演奏出来る。ここから先のペダルはオクターブ上の指使いを使う。私が演奏したことのある最低音はローCの下のAである。ペダルの練習が不足しているとしても、CとBは比較的楽に鳴らせる。私はホルン奏者がGから下を演奏するのを聞いたことがない。思うに、ボアが細い割には極度に長い管をうまく鳴らす方法があるに違いない。ホルン奏者はトランペット奏者みたいに極端なペダルが吹けないとしても、CやBまで吹くことで十分同じ効果が出る。

さっきと逆の上昇音型を基音のローCから始めること。もし生徒がこの低音を吹けないとしたら、出せる一番低い音から始めさせること。
この練習をトランペットのペダルCから始めるとしたら、ホルンではペダル音域から始めるためにローCから始めることになる。
譜例12を参照のこと。
トランペットの記譜上のダブルペダルで始まる次のエクササイズは、同じローCから始めて書かれた通りに上昇するが、トランペットと違ってF♯でペダル音域から外れてしまう(トランペットなら外れるまでにあと1オクターブ要するが)。そこで通常の指使いを用いる。
すなわち上記で説明したペダル音域の指使いで演奏し、G♯でB管に切り替える。
注意:トランペットでの記譜上のダブルペダルCで始まる練習では、
ホルン奏者はもう1オクターブ付け加えること。これもまた疲れるが必要である。ホルン奏者はこの低音域を演奏しなくてはならないので少なくても通常の作品によく出てくるFまでは上昇すること。

知っておくべきこととしてもう一つ。譜例13を参照のこと。ローFはB管の開放で吹ける。これは本当のペダルノートである。
譜例14にはFから下がってC♯までB管で吹く方法が載っている。実際の作品ではこの指使いで演奏するものである。音域練習ではF管だけで前述のとおりの指使いで練習するのが一番よい。
そうすれば「偽の」ペダルの「感覚」がわかり、結果として「金管演奏の原理」に書かれているこの手のペダルノートが生徒のためになるのである。
Hrn False Pedal.jpgFalse pedal 指使い
(注)最初の音は当然通常のペダルですが、それ以外は全てfalse pedalです。


●Clarkeのテクニカルスタディーズ

引き続き前述の言葉、このエクササイズの「真意」は何かにしたがって話を進める。トランペットにとって、Clarkeの本は最低音から始まり最高音域に向かう。これをホルンに移し替えるには、トランペットの譜面より1オクターブ低いF♯から始めるべきである。そして一番高く気持ちのいい音域まで上昇する。
注意:高音域とは必ずしもトランペットのハイCである必要はない。
五線の真上のGでもかなり高い。疲れることなくそれより上の音を出せればなおよいが。

もう一度言おう。ホルン奏者は少なくても1オクターブ余計に、時には5番や6番のように通常よりも2オクターブ余計に吹いているのでこれは極度に疲れる。初心者の場合、1回目は書かれている通りに吹き、気持ちのいい程度まで上昇させるのが良い。
2回目は開始の音をローCまで下げて範囲を拡張する。トランペットでペダルCまで下げるのと同じだ。そして3回目で記譜上の1オクターブ下より始めさせる。

●ArbanとSaint Jacomeの本

これらは記譜通りに「通常の」指使いで練習するものである。
ここでもまた着目すべき点は高音域の練習が多過ぎないかということである。この2つの本の練習曲の大半はトランペットでは気持ちのいい音域に入っており、ホルン奏者も気持ちのいい音域で演奏すべきである。どちらの本も記譜通りに演奏すると、最低音としてローF♯は登場しない。

Horn14.15.jpg譜例14,15譜例14を見てみよう。
これはトランペットの最低音であるが、ホルン奏者はこれも然りながらそのオクターブ下を吹く必要がある。この2つの本のどのエクササイズも記譜より1オクターブ下で演奏することが出来る。エクササイズやルーティーンによってはそうしてみるのがよい。
1回目は記譜通り、2回目はオクターブ下という具合に2回吹くことは
やり過ぎであり、生徒をくたばらせてしまう。Clarkeの本やデイリールーティーン、システマティックアプローチのように別の課題で低音域を練習している限りは、記譜通りに演奏するのが一番よい。


●エチュード

エテュードを選定するための第1のルールは、音域を見ることである。
前にも述べた通り、実用音域はGからGまでである。譜例15を参照のこと。そうなると、仮に五線の上やそれを突き抜けた音域、あるいはハイCより上に音が常にとどまっているものがあるとすれば、5度下げればうまく行くということになるだろう。また言うが、多くのトランペット奏者はこのことを「B♭管ホルンだけで演奏すること」と混同している。
両者は目指す目標が違うのだ。通常の指使いを用いて、G♯になったらB♭管に切り替える。ただエテュード全体を別の調に移し替えるのだ。
ClarkeのCharacteristic Studiesの番号付きのものを参照のこと。

Arban Characteristicsのような練習曲(B♭やCまで上昇するが大方五線内に収まっている)は記譜通りでも素晴らしいが、一方W. SmithやHarrisみたいなもの(ハイCよりも上を使い一般的に高音域にとどまる)は移調すればうまく機能する。
観察すべき重要なことは、トランペットの生徒というよりはホルンの生徒にとって(両者は同程度の実力とする)そのエテュードが疲れるものであるならば、そのエテュードは移調した方がよさそうである。また、やるべき課題全体を見てどの音域を使うか判断することも時としてある。
一般的なコメントおよび結論の書いてある最終章を参照のこと。

もう一つ注意することとして、実際に沢山のトランペットのエテュードを
吹いてみることを挙げる。実際には低音域、つまりトランペットの最低音のF♯に行き着いていないからだ。エテュードによっては移調するとうまく機能するのはそのためである。そうすれば少なくてもホルンのローBまでは下がれる。同じ音域で書かれた素晴らしいホルンのエテュードも練習すべきである。ものによってはトランペットのために移調されたものもある。Reynolds、Maxime Alphonse、Galley、Bitschがそうである。
これらは確実にホルンの生徒からオリジナルを得ること。トランペットのエテュードとホルンのエテュードの両方を生徒に触れさせることは良いことである。多くのホルンのエテュードはトランペットのエテュードが何を目的に書かれたかに触れていないし、逆も真である。

●マウスピースや楽器

Atkinson.jpgAtkinson これについては稿を改めたいところであるが、新入生やホルンの先生によく聞かれるので一般的なコメントを述べる。どの金管楽器と同様に、bigとfreeが鍵となる。しかしホルンにとってどういうことがbigでfreeなのだろう。マウスピースについては1番ドリルのものを持つべきである。
ドリルの大きさはトランペットと同じに考える。すなわち、素晴らしいトランペット奏者が20番または22番のドリルを使うように、素晴らしいホルン奏者も1番を持つものである。
私はAtkinsonのCerminaroモデルの1番ドリルを持っている。これはGiardinelliのChambersモデルの1番と同等のものである。どちらも通信販売で注文出来る。



Conn8D.jpgConn8Dホルン本体について言えば、息の抜けが一番自由に作ってあるものはコーン8Dである。最新のものもいいものではあるが、本当に素晴らしいものは1966年以前に作られたもので、ベルにElkhart Indianaと刻印されたものである。問題は、ものが段々と希少になっており、値段も上がっている。
コーンをコピーした新しいヤマハや、少しきついがクルスペもいい楽器である。あらためて、自由に吹き込める楽器が一番いい。

(訳注)
AtkinsonのChambersモデルは現行のカタログに存在していないが、 ニューヨークスタイルのモデルCがそれに相当するであろう。
Giardinelliは現在のものと当時のものとでは雲泥の差があるので 訳者は薦めない。Cerminaroモデルと名付けられているものはMarcinkiwitzで作られている。 Elkhart時代のコーンは現在でも伝説的な楽器である。テキサスで作られたものはベルが厚過ぎて駄作だが、現在のものは品質がよろしい。またここでのクルスペとは戦前のものを指していると思われる。

結論、一般的なガイドライン

ホルンの生徒に課題を与えるに当たって、常識を使うことが鍵となる。
トランペットの最低音であるローF♯より下に向かわず終始中音域や高音域にとどまる課題は、気を悪くするかもしれないがトランペット奏者みたいな音がして演奏もそのようなホルンの生徒を生み出す。終始中音域から低音域にとどまる課題は、グループで演奏すると周りをうんざりさせ、バリトン奏者みたいな音を出す生徒を結局作るはめになる。
私が言おうとしていることは、「バランスの取れた」課題を与えてほしいということである。その課題がフレキシビリティの点できつく、B♭管しか使わないとしたら、もう少し高いところまで行くものを補ってやるべきである。
例えばシステマティックアプローチあるいはFより上のClarkeが該当する。大概のフレキシビリティ練習において最高音になるであろう。ハイCみたいな音は大概のトランペット奏者にとって高いものである。エクササイズでは良い音質を維持出来るF管も使うべきである。B♭管だけだと響きに欠ける音がする傾向があるからだ。Arbanのものの中できついものがあるとしたら(記譜通りに演奏したとする)、低音域に向かうものを与えなさい。これも音域の練習であるが、Clarkeを低い音から始めたり、エクササイズによっては記譜よりも1オクターブ低く演奏させるのもよい。
生徒が自分の楽器の全ての音域を吹ければ、例えばClarkeの全ての本みたいなものが最良なのだが。上達した生徒ですらClarkeの課題全部をトランペットのオクターブ下のローF♯から始めるのはかなり疲れる。
このようにやればうまく行く。最初の日はClarkeの1番をオクターブ低く、2番は記譜通り。次の日は入れ替えて、1番を記譜通りに、2番をオクターブ低く。あらためて、常識を使うこと。

締めくくるに当たり、以下のことを頭に入れること。
ホルンはトランペット、トロンボーン、あるいはテューバと同様金管楽器であり同じ機能をするにもかかわらず、どちらかと言えば円錐形の管体であり長さの割には小さいボアであるために演奏にいささか難儀する点がある。しかし同時に、トランペットやトロンボーンと違ってこれが音質を柔らかくし、幅の広い音域や聴く人がホルンであるとわかる質感につながっている。実際、ホルンはどちらかと言うと極めてテューバやコルネットに近い。どちらも円錐形の管体の楽器であるからである。