Brass Camp Report 2012 of masashisugiyama

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Masashi Sugiyama Brass Camp2012レポート

2012.7.14(第1日目)

連休初日、快晴ではないものの梅雨明け間近と思われるまずまずの天気でブラスキャンプ2012がスタートしました。今回も北は札幌、旭川、西は山口や福岡から熱いブラスプレーヤーがたくさん参加してくれました。
写真.JPGラリーを出迎えに4回目となった今回は幸運にも、クラウド・ゴードンブラスキャンプで "Construction and care of brass instruments" (金管楽器の構造とそのケア)の講師だったラリー・スーザを特別講師に迎えることが出来たことは大変意義のあることだったと思います。
そのラリー・スーザ夫妻が野本会長のエスコートで会場入りをすると、すでに会場入りをしていた参加者の方々から歓声があがり、いかにラリーのレクチャーを楽しみにしているかが感じられました。


オリエンテーションに続くオープニングでは、2010年にジャズインプロヴィゼーション講師として参加してくれたLA在住のピアニスト&作曲家 Jordan Seigel がこのブラスキャンプのために作曲してくれたファンファーレをスタッフの熊谷裕一指揮のもと全員で演奏しました。音と音が触れ合ったところで第4回杉山正ブラスキャンプの開幕です。

ブリージングエクササイズ

アメリカにおいて19世紀の終わりから20世紀初頭には偉大な金管奏者が大勢存在していました。彼らは現在ほとんどのプレーヤーが苦戦している高音域を自在に操り、ペダルノートからハイノートまでバイオリンを演奏するがごとくいとも簡単に演奏していました。その彼らがいったいどのような演奏をしていたのか、同時にこのブラスキャンプで行われる内容のイメージを持ってもらうべく、コルネットヴァーチュオーソのひとり George Swiftと、スーザバンドのソリストであったトロンボーン奏者 Arthur Pryorの演奏を聞いてもらいました。
当時彼らが行っていた奏法を学ぶ前に、まず、クラークからゴードンに伝わったブリージングエクササイズの紹介。ゴードンから伝授された10 Breathエクササイズと5 Stepsエクササイズを説明されたとおり実践して行きます。「空気が入るのは唯一肺で、肺は車のガソリンタンクと同じ。肺を取り巻く呼吸筋をスクィーズ(締め上げる)することによってエアーをコントロールする能力も養われて行きます。



舌の訓練

音程は舌が動くことによって変わります。つまり舌の動きがスムーズになることによって演奏がどんどん楽になって行きます。舌を訓練する方法としてあげられたのはロングトーン。ただ1つの音をロングトーンするだけだと口内では何も行われませんが、pp < f >pp と行うことによって舌が動くことを確認し合います。舌を下の歯の付け根にセットしてppからスタートします。(スーパーロングトーンより) fからppデクレッシェンドして行った時に舌がすごく上がって来ることを感じながら皆で実践し、ppポジション=ハイノートポジションであることを学びました。
この他にシラブルが、ア→イと変わることで音程が変化すること、高い音になったらエアーを強く吹き込むこと、アンブシュア(唇の位置)、マウスピースだけのバズィングは楽器で演奏する抵抗と違うのでNGであること、口輪筋をいくら鍛えても効果がないどころか悪癖となってしまう...などの話がありました。

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クラシックアプローチ

P1020703.JPG2時限目は松崎講師によるクラシックアプローチ。
今回はご自分の録音素材を使って、時代の流れとトランペットの使われ方の変遷についてのレクチャーです。
この他にピッコロでバロックを演奏する場合に留意する点、オーディションについて話されました。オーディションは体力勝負であること、ウォーミングアップするだけで吹く本番設定のシュミレーションを数こなすこと、そして課題曲を1日5回繰り返しても大丈夫なウィンドパワーをこのブラスキャンプで学んで欲しいと話されました。
今回とても興味深かったのは、”オーケストラのオーディションを体験してみよう” という新しい試みです。課題曲はマーラーのシンフォニー5番とストラビンスキーのペトルーシュカ。2日目のアンサンブル発表会でオーディションをシュミレーション体験するため6名がエントリーしました。


2日目

一日の練習の組み立て例

1)ブリージングエクササイズを行ってからまずやることは初日で話したpp < f > ppのロングトーン。
Super Long Toneの1番を使って。重要なことは1つのエクササイズが終わったら楽器を唇から離して休み(5秒ほど)次に進みます(上限はミドルC)。
エクササイズは基本的にはロングトーンですが、2分音符、4分音符、8分音符...とタンギングを絡めながら少しずつ変化させて行きます。この練習は、fになった時は舌が下がり、ppになった時は舌が上がることを意識しながら5分~10分ほど費やします。
2)タングフレキシビリティ。アイアン、コリン、スミスなどいろいろな教則本がありますが、ここでは。シラブルはティアエイ ティアエイ...と行いながら最高音はキックする感じでエアーを強く吹き込むことがポイント。
3)次に行うのは指、タング(シラブル)、ウインドコントロールの練習です。これを一挙に出来るSmooth Tonguing(以下ST)の2番4回リピートを旭川から参加の角雅晃さんがデモンストレーションし、タング(シラブル)とフィンガリング、ウィンドコントロールを見事に披露してくれました。この練習は半音ずつ行って1週間ほど費やしたら、納得行っても行かなくても次に進みます(ここ重要)。このSTはさまざまなモデルが書かれているため、エクササイズを進めて行くことで曲を吹くための必要な要素をバランス良く発達させることが出来ます。ここではトランペットにおけるピストンに乗せる指の使い方と押し方、フィンガリングの練習の時はフィンガーフックを使用しない、親指の位置を含めた左手の使い方などの注意もありました。
4)ここまで終えたら松崎先生も講義で話していたクロドマイヤーなどクラシックの小品の練習を必ず行います。もしこの教則本が荷が重かったらクラークのエレメンタリースタディを行います。
5)最後はレンジスタディ(音域拡大の練習)。ハイノートだけでなくペダル音域とのセットでバランスよく行うことが大事です。High Air Build またはSystematic Approach を使用します。

楽器ケア 深谷講師

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今回も楽器の表面処理の説明、メッキ楽器のケア方法、そして基本的な日常の手入れ方法について学びました。トランペットについては抜き差し管の掃除は週に1回、バルブケーシングの掃除と管体内の洗浄は月に1度が望ましいとのことでした。トロンボーン編では演奏前のスライドの準備からロータリーへの注油方法、演奏後のスライドの掃除、表面の手入れ、抜き差し管の掃除とロータリーの手入れは週に1回、管体内の洗浄は月に1度ということでした。
加えて今回は注油の画像や、なかなか見る機会のないマウスピースの旋盤作業の動画も用意していただき参加者の目は釘付け。自由時間にはいつものように参加者達の楽器をチェックする献身的な姿がそこにありました。
ラリー自身もリペア作業を行うので深谷講師が楽器をチェックする様を興味深く見ていました。


ラリー・スーザによる特別講義

ランチのあとは参加者誰よりも杉山 正が一番楽しみにしていたと言ってよいラリー・スーザによる本邦初レクチャーです。1979年にClaude Gordon Brass Campで、サンフランシスコの1stコールトランペットプレーヤでもあり、リペアマンとして楽器やマウスピースに精通しているラリーに出会って以来今日まで杉山自身も何かにつけ彼に相談して来ました。そのラリーを、杉山がこのブラスキャンプでレクチャーしてくれることになった嬉しさを体中で表現しながら紹介します。

ラリーは、まずどのように楽器になって行くかの過程において、Bb管と同じ長さのホースを使いながらマウスピースを付けることによる利点、ベルを付けることによる利点を実演しながら説明してくれました。この実演を通してプレーヤーは息を入れることに意識が行きがちだが、楽器,特にベルは拡声器的な役割を担っていることが分かりました。そのほか金属の含有比率についてやラージボアの細管、太管について初めて聞く、概念とは違うびっくりするような説明に参加者からも「へぇ〜」という声が聞こえて来ました。


次にトランペットの製造過程を例に取って楽器がどのように仕上がって行くかをスライドを交えながら丁寧に進めて行きます。普段見ることが出来ないその過程を皆さん食い入るように見ていました。
ラリーは今回たくさんの資料とともに大量のマウスピースもアメリカから持って来てくれました。寒い地域でマーチングする時に使用するマウスピースには唇がくっ付いてしまわない樹脂のリムが装着されているなど、それぞれの目的に合わせて作られたマウスピースを披露してくれました。その中には、ベルが下を向いてしまう奏者に対しては今までマウスピースを途中で曲げて調整する方法しかなかったのですが、リム自体を調整、加工することで同じ効果となるマウスピースもありました。初めて見るマウスピースを皆さん驚きながらもしっかり写真に収めていました。予定していた時間を大幅に越えて熱心に説明してくれたラリーの言葉を完璧に通訳してくれた野本会長に感謝。

<杉山談>
今まで日本のブラス界に、パズルに例えるとワンピース欠けているものがあると感じていました。それをもしかしたらラリーが埋めてくれるのではないかと思っていましたが、今回彼のレクチャーを聞いてそれが確信に変わりました。このようなタイプの演奏面でも素晴らしく、楽器のメカニズムにも精通している人が来日したのは初めてかも知れません。彼はまだまだ今回のレクチャーは序章のような感じもしています。参加者からは来年も是非ラリーの話を聞きたいという声がありますので、この続きが実現出来ればと思っています。


ジャズインプロヴィゼーション

4限目は堂本講師によるジャズインプロヴィゼーション講座。
昨年はATNから出版されている「ジャズ・コンセプション」を教材に耳コピの方法を分かりやすく丁寧に指導していただきました。
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今回は音を聞く1つの方法として、聞こえて来た音を実際に譜面にしてみることを行いました。正しく写譜することは難しいですが、ノートに残すことによって忘れない、復習出来るメリットがあります。写譜したあとはCDに合わせてアーティキュレーションはもちろん、聞こえて来る音源の音符の長さにも注意を払いながら演奏してみました。即興演奏の基本であるコピーは、英語のシャドーイングのように聞こえて来た音を即座に真似て演奏してみることはもちろん、単語帳を作成するように、気に入ったフレーズやII-V-I などをしっかりノートに書き取ってボキャブラリーを増やして行くことも大切なようです。

模擬オーディションとアンサンブル発表会

夕食後はブラスキャンプのメインイベント、講師も参加者も楽しみにしているアンサンブル発表会。
その前に、松崎先生考案の模擬オーディションです。審査員は杉山 正、ラリー・スーザ、松崎祐一、吉田憲司、内田日富、堂本雅樹の6人。オーディションの課題曲「マーラーの5番」、「ストラビンスキーのペトルーシュカ」に伊豫 秀、梅澤伸之、福田員茂先生、角 雅晃、箕輪佳宜、小西美香子さんの6人が挑みます。
審査員が席につき、会場はシーンと静まり返りました。こんなに緊張感あふれるシチュエーションはブラスキャンプ始まって以来です(笑)。
エントリーした5人が審査員の前でこれまた数少ない時間で仕上げた課題曲を演奏して行きます。どの顔も緊張気味でしたが精一杯の演奏とナイストライに会場からは惜しみない拍手が送られました。結果はグランプリが角 雅晃さん、準グランプリが小西美香子さんでした。来年も行われるであろうこの模擬オーディションを目標に、エントリーするプレーヤーが増えて行くことを望みます。

続いてアンサンブル発表。初日に用意されたアンサンブル譜をもとに各自グループを組んで限られた時間内で仕上げるというのは至難の業ですが、皆さんの演奏はびっくりするほどレベルの高いものでラリー夫妻も感心して聞いていました。
皆さんの素晴らしい演奏が終了したところで、ラリー・スーザがコール・ポーターの"What is This Thing Called Love"を披露してくれました。彼のフリューゲルから次から次に溢れて来る洗練されたフレーズに会場は極上のライブハウスと化し、どの顔もうっとりと聞き入っていました。
オオトリは吉田憲司さんアレンジのブラスロック”Get It On"。吉田さんコンダクトのもと講師総出演の熱いプレイに会場はヤンヤヤンヤの大盛り上がり。旭川から参加したチューバの北村慶太さんはリハーサルから、素晴らしい現役プレーヤーと一緒に演奏出来たことに大感激していたとか。このサウンドやノリを忘れずにこれからも頑張って行って下さい!

最終日

ペダルノートとハイレンジスタディ

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ブリージングエクササイズのあと、最後のレクチャーはペダルノートを含むローレンジスタディとハイレンジスタディ。参加者全員で円を描くように座ります。ローレンジスタディはチェストアップをして豊かなオープンなサウンドを心掛けます。最後のシラブルがオーとならないように。『オー』と発音した瞬間に音の響きがなくなるためです。エアーがなくなりかけたらクレッシェンドすることがポイントです。そしてエア、サウンドがなくなってから両腕で呼吸筋をスクィーズ(絞り上げる)する動作を3秒間行います。これがまさに演奏時に使う筋肉。
このような説明があったあとHigh Air BuildまたはSystematic Apprachを使って1人ずつ丁寧にチェックして行きました。

この練習はチューバ以外、立奏が必須です。

立奏で呼吸筋を絞ることによりよい筋肉が付き、エアーパワー、エアーコントロールの強化に繋がって行きます。1つのエクササイズを終えたらホーンオフしてリラックスすることも忘れずに。
そして、立奏のままペダル練習と対に行うハイレンジスタディに進みました。



記念撮影と振り返り

今回ブラスキャンプを振り返って感じたのは、昨年より皆さんのサウンドがよりオープンで良いサウンドとなったこと。加えて、特にリピーターの方達のウインドコントロールが上達したことで耐久力が増し、曲を美しく奏でることが出来て来たことなどが挙げられます。

最後にラリーと杉山の会話を皆さまにお届けします。
ラリー「通訳がなくても、マサシの言っていたことがすべて理解出来たよ」
杉山 「オリジナルは何もなく、自分はゴードンの言っていたことを皆に伝えただけ」
ラリー「それでいいんだ。ゴードンもクラークの言っていたことを伝えただけだからね」

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